1. マグネス氏の告白と、その中に見た共通点
スティーブ・マグネス氏は、以前スタディオン読書会で『強さの力』を初めて読んで以来知っている作家である。ただ、今回出版された新刊を読みながら、同氏が世界最高峰のプロ陸上チームであるナイキ・オレゴンプロジェクトのコーチを務めていた当時、禁止薬物を投与せよという内部指示を受け、思い悩んだ末に最終的には米国反ドーピング機構(USADA)へ内部告発を行い、そのために10年にわたる苦難の時間を過ごしたという事実を知ることとなった。
私は2012年12月に告発状を提出した。……事件は、USADAが私の上司であったアルベルト・サラザール(Alberto Salazar)とチームドクターのジェフリー・ブラウン(Jeffrey
Brown)に4年間の資格停止処分を下した2022年になってようやく終結した。
この部分を読みながら感じたのは、内部告発者は国籍を問わず同じような試練を経験するということであった。2012年に告発が行われたにもかかわらず、その手続きが2022年になってようやく終結したという事実には、かなり驚かされた。おそらく韓国であれば、内部告発者がマスコミを通じて、告発後にむしろ生活がより苦しくなったと訴える状況になっていたのではないかと思われる。筆者が内部告発者の経験に関心を持つ理由は、筆者自身が内部告発者を代理する業務を行ってきた弁護士だからである。
2. 内部告発代理人として見てきた現実
筆者は、国民権益委員会の非実名代理申告顧問弁護士として4年間活動した経験がある。その期間中に依頼を受けた数多くの事件の中には、内部告発に該当し得る案件が相当数含まれていた。実際に内部告発が行われた事件もあれば、相談にとどまった事件もあった。内部告発が行われた事件の中には、当事者が申告書を提出した後、結局これを取り下げた事例もあった。その理由は、当該当事者が会社を告発しながらも、その会社で引き続き勤務し続けたいという意思を持っていたためである。そのため、内部告発の後、会社に対する申し訳なさや同僚を裏切ったという罪悪感など、複雑な感情が入り混じった末、最終的には申告を取り下げ、その会社で引き続き勤務する道を選ぶこととなった。幸いにも、関係当局による直接的な調査が開始されるまでにはかなりの時間を要する状況であったため、会社がこれを認知する前に取り下げが行われ、その方は引き続き勤務を続けることができた。
3. 内部告発を阻む構造的な限界
このように、内部告発は決して容易な過程ではない。韓国でも内部告発者を保護するために公益申告者保護法が定められているが、この法律による保護は、事前的に行われるというよりも、事後的に行われる余地が大きいと見るべきである。法律が保護を規定しているからといって、会社が最初から内部告発者に不利益を与えられないわけではない。会社はひとまず内部告発者に不利益を与えることができ、その後に法律違反として制裁を受けるという構造が、現行法の内容だからである。
このような保護領域に含まれない場合であれば、内部告発はさらに困難なものとなるだろう。筆者は以前のブランチ(note)の記事でも、選挙管理委員会の職員が内部告発を行いにくい理由について言及したことがある。選挙管理委員会の職員が保険に加入しているという記事に接したことがあるが、その内容によれば、不正選挙を理由に外部から訴訟を提起された場合にこれを補償するものと見られ、職員が選挙管理委員会の不条理を外部に明らかにすることによって、選挙管理委員会から不利益や訴訟を受ける場合まで保護してくれるものではないように思われる。この推測が妥当であるとすれば、選挙管理委員会の職員は、もっぱら公益のためという目的でもない限り、内部告発を行う誘因がさらに乏しいと言える。
4. 「内部告発をせよ」という声への疑問
そうした理由から、筆者はある事件が発生した際に内部関係者に対して「内部告発をせよ」と求めるSNSのコメントを目にするたびに、果たしてそのコメントを書いた方が同じ状況に置かれたとしても、そのように行動するのだろうかと問いたくなることが多い。筆者の予想では、実際にそのような状況に置かれた場合、大半の人は内部告発をしないだろうと考えられる。このように、他人に道徳的な物差しを当てて特定の行為を堂々と要求する人ほど、逆に自分が同じ要求を受けることになると、自己正当化によって態度を変えてしまう場合が少なくない。それにもかかわらず、実際に内部告発を敢行する方々を見ると、内部告発を行う時点で既に当該職場を離れ、他の職場を探すなど、経済的な困難を回避するための方策をあらかじめ講じている場合が多い。このような準備が先立たないまま内部告発を行うことは、自らの生活を危険にさらす結果を招きかねないため、筆者もまた、相談に訪れる方々に対して内部告発を積極的に勧めることはしていない。
5. 結び ― 内部告発者への敬意
このような文脈からか、スティーブ・マグネス氏が内部告発を決意した当時、友人や弁護士はもちろん、著名な米国の判事でさえも、内部告発をしないよう助言したという。
告発が正しいことであっても、内部告発者が勝つ場合は極めて稀である。キャリアをまともに始める前に、危機に陥ることになるだろう。
という助言であったと伝えられている。米国の状況がこうであるならば、韓国の状況はさらに厳しいだろうと推察される。こうした理由から、組織に身を置きながらも内部告発を敢行した方々を見ると、実に立派な方々であるという思いに至り、我々の社会がこうした方々を最大限保護するための努力を傾けるべきではないかと考える。法曹関係者よりも、むしろ正義感の強い方々であると言えるだろう。

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